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東京地方裁判所 昭和34年(特わ)966号 判決 1962年2月01日

被告人 李定大 外三名

主文

被告人李定大を懲役六月及び罰金一五〇万円に処する。

但し本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

被告人が右罰金を完納することができないときは金一万円を一日に換算した期間労役場に留置する。

被告会社江商株式会社を罰金七〇万円に、同垣内商事株式会社を罰金九〇万円に、同興和株式会社を罰金一〇〇万円に各処する。

訴訟費用中証人吉田喜太郎、同永井総一、同村西淳一、同矢野俊比古、通訳人逸見益宏に支給した分は被告人四名の、証人北川暉雄、同林春雄に支給した分は被告会社興和株式会社の、証人中井高一に支給した分は被告人李定大の、証人今井勉に支給した分は被告会社垣内商事株式会社の、証人橋本裕、同堀尾竜三に支給した分は被告会社江商株式会社の各負担とする。

理由

犯罪事実

被告人らに対する各関係の昭和三四年一二月一〇日附及び同三五年一月二三日附(但し共謀の上の次に、法定の除外事由なく、と加う)同年同月二五日附(但し別表(五)10の支給金額六一八、五九八を六一八、三九八と、又合計六、八一一、三五七を六、八一一、一五七と各訂正する)各起訴状記載の公訴事実と同一であるからこれを引用する。

(証拠の標目省)(略)

弁護人らの主張に対する判断

一、被告会社は被告人李定大と国内取引をしたにすぎないと主張するが、前顕証拠に照し被告人李定大は香港永安祥百貨有限公司の代理機関として本件取引をし、輸出契約は右各被告商社と香港公司との間に締結されたものと認める。従つて被告会社がいわゆる基準価格の関係から実際契約価格を超過した価格で開かれた香港からの信用状に基ずいて受領した超過金員を李定大に対して支払うことは、香港公司(非居住者)のために李定大(居住者)に支払つたものというべきである。蓋し外国為替及び外国貿易管理法二七条三号の「非居住者のためにする居住者に対する支払」の義は、同条項一号、二号の外国向又は非居住者宛支払の禁止からみて、非居住者と代理関係にある者に対する支払を禁止する趣旨を含むものであること明らかである。

(仮に弁護人ら主張のように輸出契約は李定大と香港公司との間になされたもので、被告会社はその輸出業務を代行したにすぎないとしても、名義上輸出者である各被告会社が香港公司から開かれた信用状の受益者として金員を受領した以上その金員から自己の李定大に対する売買代金を差引いた残額を李定大に対して支払うことは、輸出契約上の債務者である香港公司(非居住者)に代つて債権者である李定大(居住者)に支払うことであつて、これ又法二七条一項三号の禁止する行為であることその文義に照し明らかである。)

二、外田為替管理令一三条に基き外貨債権の処分に関係のない本件支払は法の禁止するところではない旨の主張は独自の見解というべく、令一三条は債権に関する規定であつて、支払に関する本件にかかわりがない。

三、法七三条が無過失責任を定めたものとして憲法三一条に反するとの主張は、同条が事業主の行為者に対する選任監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽さなかつた過失推定規定である趣旨の大法廷判例(昭和二六年(れ)第一四五二号同三二年一一月二七日言渡集一一巻一二号三一一三頁参照)に反する独自の見解を前提とするもので採用できない。

四、期待可能性がない旨の主張は、本件事犯を避けて他にとるべき手段がなかつたとまではいい得ない本件事案の性質に照し首肯し難い。

五、違法の認識がない旨の主張は前記認定に照し業者として法の不知にすぎないから容れ得ない。

法律の適用

各昭和三三年法律一五六号による改正前の外国為替及び外国貿易管理法二七条第一項三号(七〇条一項八号前記改正法律附則二項)(罰金等臨時措置法二条一項)刑法四五条前段四八条二項刑訴一八一条一項

各被告会社につき外国為替及び外国貿易管理法七三条

被告人李定大につき刑法四七条二五条一項、一八条

(裁判官 高橋幹男)

昭和三十四年十二月十日附起訴状記載公訴事実

被告人は、東京都中央区銀座西一丁目五番地に事務所を置き、永安祥百貨有限公司名義で貿易業を営んでいたものであるが、法定の除外事由がないのに別表記載の通り昭和三十一年十二月十七日頃から同三十二年三月五日頃迄の間前後三回に亘り東京都中央区銀座西五丁目五番地株式会社日本勧業銀行銀座支店に於て、非居住者である香港在住の李定中の経営せる永安祥百貨有限公司のため、居住者である岩井産業株式会社から輸出毛織物等の代金の実際契約価格とインボイス価格との差額として合計百九十六万二千六百六十六円を受領し、以て非居住者のためにする居住者に対する支払の受領をなしたものである。

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